やぁ。
本誌は「魔」に関する考察と歴史、そしてその実践の方法を紹介するものだ。
わたしや光人たちが世界をどのように捉え、どんな風に見えているのか、
それをなるべくわかりやすく紹介したいと思う。

注意事項

ここに書かれていることは、現代科学では根拠のないただの夢物語に過ぎない。
けれど、気をつけて欲しい。プラセボや自己暗示、思い込みという効果が
人間にはあると言うことを。そしてその効果は決してバカに出来ない。
だから本誌に記されたことは、ただのフィクション、夢物語としてとらえて欲しい。
決して信じたりしてはいけない。

方針

多くの魔道書はたくさんの知識を必要とする。悪魔の名前や複雑な図形や物質の名前、
ユダヤ教やキリスト教、さらにその宗派と教理の話、そしてそれらがどうつながっていて、
何がどうなっていて何が正しいのか、どう情報を集めればいいのか。
サバト倶楽部ではそういう小難しいことにはとらわれず、なるべく単純に西洋魔術を紹介
するよう試みる。

世界のとらえ方

魔……というか、聖天翔学園秘密探偵社が扱うのは、世間一般では「西洋魔術」と
言われている部類のもの。
オカルトとしてあまりにも有名で、そして悪魔と契約を交わして云々、というのは
ちょっと興味がある人ならば誰しもが知っていること。けれど実際に悪魔と契約を
交わす前に、どういう視点でわたしが……いや、当時の魔術師と言われていた人々が
世界を捉えていたのか、そのことがわからなければ、悪魔との契約は難しい。
まず最初に、今の常識を捨てて、魔の世界のとらえ方というものを説明しようと思う。

何度も言うけれど、ここに書かれていることは夢物語。決して本気にしてはいけない。

魔も科学

魔が扱う分野はとても広い。当時の文献を紐解けば、呪術的なものから迷信、そして錬金術に至るまで、魔という一言でいろんなものが内包されてしまう。魔は人々の解決手段の一つであり、そしてこの世界、万物を理解する方法の一つだった。
これは今の科学とまったく同じこと。
似非科学も含めれば、現代の人々は科学によって物事を解決し、望みを叶えてきた。遠くの人と会話が出来る「電話」、空が飛ぶことができる「飛行機」。これらは何も現代に限ったことではなく、大昔からの人間の夢だった。そしてかつての人々はその解決方法に「魔」を選んだというだけなのだ。
その「魔」により、この世界を理解しようとし、万物を知り、そして夢を叶えるために魔を使いこなそうと努力した。彼らのその探求の過程は科学のそれと変わるところはない。

つまり、「魔」は科学だったのである。

今の科学からしてみれば、当時のそれは非科学的なものが多く、宗教にも縛られた稚拙なものだった。けれど、それが当時の最先端の知識であり、技術だったことは間違いない。つまり魔も科学も一緒のものだ。誤解を恐れずにいえば、科学が発達したことにより、過去の稚拙な科学が「魔」となってしまった……そう言えると思う。

聖書の基本的な話

西洋魔術を語る上で切っても切り離せないのが、キリスト教とユダヤ教だ。西洋魔術を扱うには、まずは聖書を読むことが大事だ。聖書には神様のことだけでなく、天使のことも悪魔のことも書いてある。
それはさておき、凄く大雑把なキリスト教とユダヤ教の説明をしておこうとおもう。
まず聖書には旧約聖書と新約聖書の二つがある。これはそのまま、わたしたちが使っている「西暦」に反映されていて、A.D.(紀元後)が新約聖書の世界、B.C.(紀元前)が旧約聖書の世界だ。その違いは、神の御子であるイエス・キリストが人間の罪の生け贄となり、今まで人間の罪の許しに必要だった血が不要となる新しい神との契約と言う意味で「新約」、そしてそれ以前を「旧約」と言うのである。
そして大雑把に言ってしまえば、キリスト教は新約の世界の宗教、ユダヤ教は旧約の世界の宗教ということになる。
つまり紀元前の話が出てくれば、それは旧約の世界、つまりユダヤ教の話。
紀元後の話が出てくれば、それは新約の世界、つまりキリスト教の話だと思ってこれから先のことを読むとわかりやすいと思う。そしてこのキリスト教とユダヤ教の違いは、「魔」の使い方の違いにはっきりと反映されている。

ただここで誤解してはいけないのは、旧約の世界だからと言って、ユダヤ教の方がキリスト教に較べて劣っているとか、古くさいとかそういうことはない。どちらも現役の宗教であることに間違いはない。ただ、魔の、特に呪文の考え方は大きく異なるので、上のことを頭に入れておいて欲しい。

西洋魔術はどこから来たのか

さて、翻ってわたしが使う「魔」について、そのルーツを駆け足で探ってみよう。
誰しもが知っている通り、西洋魔術のルーツはかの有名な「ソロモンの鍵」にたどり着く。ソロモンとはイスラエルの王様で、紀元前 1000 年頃の人だ。伝説によると、彼は 72 の悪魔を使役したという。そしてこの 72 の悪魔を使役することこそが、西洋魔術の一つの最終目的であった。
つまり西洋魔術はほぼこの「ソロモンの鍵」から出ていると言っても過言ではない。
そしてそれは自動的に、西洋魔術がユダヤ教、キリスト教に基づいた「魔」ということになる。先に聖書の話に触れたのは、そのためだ。
けれどソロモンの時代にすでにそれほどの魔があったのなら、それ(紀元前 1000 年)よりももっと遡ることができるはずだ。ではさらにそのルーツはどこにあるのか?

キーワードは悪魔との契約の「契約」という言葉にある。

西洋文明に大きく影響を与えたのは、ギリシア文明とエジプト文明と言われている。どちらにも「魔術」は存在し、そしてどちらも「宗教」との関わりが深い。一方のユダヤ人たちは地理的には「中東」に位置し、その影響はメソポタミア文明に遡ることができる。
「新約・旧約」という言葉や「悪魔との契約」という言葉に表れている通り、メソポタミア文明は「契約社会」だったのではないかとわたしは推測している(ハンムラビ法典、ウル・ナンム法典)。さらに現代とほぼ変わらない麦の収穫率を得ることのできた彼らの技術は高く、それは天候の予測、土地の区画といった分野に応用され、数学が特に栄えた。
メソポタミアではすでに平方根があり、二次方程式があり、そしてわたしたちになじみ深い 1 週間を 7 日で区切るという歴も彼らが生み出した。60 進法もメソポタミアが発祥ではないかと言われている。
メソポタミア文明は数学が非常に発達していたのである。

この数学を利用した古典的な魔術が「カバラ」である。これはユダヤ人が編み出した魔術であり、また数学によって運命やこの世界に隠された秘密を解き明かそうとするものである。つまりメソポタミアに端を発した数字の神秘が、ユダヤ人達の間でカバラという魔術を生み出し、その魔術が「神」や「悪魔」と巧みに絡み合い、超人間的な存在(神や悪魔)の力を借りて、自らの運命を変えていく魔術へと変遷していったのではないかとわたしは考えている。

西洋魔術はヨーロッパの知をキリスト教でまとめたもの

今度はエジプト文明のヨーロッパへの影響を見てみよう。
エジプト文明はそもそもメソポタミア文明の影響を受けていることは、誰しもが知るところだと思う。
とはいえ、エジプト文明も紀元前 3000 年より前から人が生活しており、農耕はもっと前から始まったとされている。メソポタミアから伝わった歴や農耕の技術は、エジプトで独自に発達し、天文学・幾何学が、ギリシア、ローマへと受け継がれ、ヨーロッパに広まっていった。ギリシアの哲学者達がエジプトから学んだことを認めているのは有名な話だ。ギリシア文明の星座や様々な数学・物理の定理などは、エジプトに影響されながら育まれたんだと思う。
面白いことに、メソポタミアの影響もある。ギリシア文明の祖と言われるエーゲ海に散らばる文明(トロイ、クレタ、ミケーネなど)は、粘土板に象形文字を彫り込むというメソポタミアとエジプト文明を融合したような文明が残っていたりする。

翻って視点を古代オリエントからスカンジナビア、アイルランドに向けてみよう。
俗に言う北欧神話やフィンランド神話は古くから独自の文化、そして宗教観を持っている。そしてヨーロッパ各地に散って行ったケルト系のハルシュタット文化など、そこには独自の精霊、神々が存在し、独自の儀式・術が発展していた。

それらがローマ時代に融合され、さらにローマ帝国の国教にキリスト教が選ばれ、そしてローマ帝国を滅ぼしたゲルマン民族にキリスト教が受容され、ヨーロッパはキリスト教の世界になってゆく。いわば西洋魔術とはメソポタミア、エジプト、ギリシア、ケルト、ゲルマンなどなど様々な異文化を吸収、発展し、そしてキリスト教によってまとめられた知の集大成と言えると思う。契約、タロット、精霊、呪い……これらの現代となっては馴染み深い言葉も、永い永い歴史の中で紡がれ、洗練されてきたと言えると思う。

ふぅ、第一号はここまで。
ものすごく荒い説明だけれども、西洋魔術の成り立ちを歴史的な側面からまとめてみた。
「魔」には多くの人の知識とそして膨大な時間が秘められているということを少しでも理解して欲しい。
これらを理解することによって、「魔」の使うそれぞれの力が「どこから来たのか」を知る。
そしてそれはあなたが「魔」を使うときの大きな助けとなるだろう。
次号はいよいよ魔の世界のとらえかた、そしてその力の扱い方について触れていくことになると思う。
すこしでも「魔」の存在を身近に感じることができたら、わたしは凄く嬉しい。
というわけで、我が聖天翔学園秘密探偵社では部員を募集中。興味のある人はカシオペア座にペンタグラムを向け、
我が名を呼ぶといい、三日のうちにわたしがあなたのもとに現れるであろう。
もし、現れなかったら縁がなかったと思って諦めて欲しい。

奥付

発行日: 2010/4/22
発行者: 聖天翔学園秘密探偵社
印刷所: 聖天翔学園生徒会 印刷局